バイオプラスチックで問題は解決?

バイオプラスチックという、いわゆる環境に優しいとされるプラスチックがあります。石油を使わずに再生可能な植物などを原料に作られ、ごみになっても自然環境で分解される、そんなエコなイメージがあります。このバイオプラスチック、はたして海洋プラスチック汚染の救世主となるでしょうか。

最初に知っておきたい事実として、まず、すべてのバイオプラスチックが植物などの生物資源から作られるわけではなく、石油などの化石資源を原料にするものもあります。また、すべてのバイオプラスチックが微生物に分解されるとは限らず、まったく分解されないものもあります。

バイオプラスチックとは?

“バイオ”プラスチックとはそもそも何でしょうか?バイオプラスチックには2つのプラスチックが含まれます。1つは、植物などのバイオマスから作られ、石油の消費を減らすとして注目される「”バイオマス”プラスチック(biomass plastic)」。もう1つは、微生物に分解される「”生分解性”プラスチック(biodegradable plastic)」です。どっちかであれば”バイオ”プラスチックと名乗ることが出来ます。

バイオプラスチック

バイオマスプラスチックとは?

プラスチックは普通、石油などの化石資源から合成されて作られます。しかし、原料を石油ではなく、植物などのバイオマスを利用するプラスチックが「”バイオマス”プラスチック」です。限りある化石資源を消費する従来のプラスチックの代替になるプラスチックとして期待され、研究・開発が進められています。

バイオマス(biomass)とは、具体的には、動植物、生物の遺骸や排泄物、農産物、食品廃棄物などを含んでいますが、一般的なバイオマスプラスチックは、トウモロコシ、藻類、小麦、ジャガイモ、大豆、タピオカ、ココナッツ、サトウキビ、木などの再生可能な植物バイオマスから作られます(e.g. 日本バイオプラスチック協会 2009)。

バイオマスプラスチックは、原料がバイオマスであればよく、それが生物に分解できようができまいが問題ありません。そのため、後述する生分解性のバイオマスプラスチックと非生分解性のバイオマスプラスチックがあります。

しかし、原料や製品の重量のうち25%以上がバイオマス由来ならバイオマスプラスチックと認定されるため(日本バイオプラスチック協会 2009)、言い換えれば、すべてのバイオマスプラスチックが天然の再生可能な材料で完全に作られているわけではありません。

生分解性プラスチック(グリーンプラスチック)とは?

「生分解性プラスチック」とは、その原料が石油だろうがバイオマスだろうが、一定条件の下で微生物に生分解されるプラスチックです。「グリーンプラスチック(green plastic)」とも呼ばれます。自然に還るというコンセプトのもとさまざまな容器・包装やコスメに使われ始めています(Song et al 2009)。

ここで「生分解」とは、「微生物によって完全に消費され、自然的副産物である二酸化炭素・メタン・水・バイオマスなどのみを生じるものでなければならない」と国際的に定義されています(荻野ら2018)。

まず加水分解によってプラスチックのポリマーを低分子化し、小さなった破片を微生物に分解させる「加水分解型生分解性プラスチック」がその代表です。

生分解性プラスチックにはバイオマス系と石油系の2タイプがあります。バイオマス系の生分解性プラスチックとして最も有名なのはポリ乳酸(PLA)でしょう。トウモロコシなどの植物からとったデンプンを乳酸発酵したものを重合して合成されます。

発酵は微生物の力で行うため、製造時のエネルギーが少なくてすみます。自然環境の土壌中でも微生物に効率よく分解されると報告されています(荻野ら2018)。

石油系の生分解性プラスチックには、石油由来の物質にコハク酸をあわせて作られるポリブチレンサクシネート(PBS)やポリエチレンサクシネート(PES)などがあります。

バイオプラスチック

加水分解型と酸化分解型の生分解性プラスチック

生分解性プラスチックには、上記で述べたグリーンプラスチックと呼ばれる「加水分解型」の他に、「酸化型生分解性プラスチック」があります。こちらは、ポリエチレンなど従来のプラスチックに,酸化を促進する添加剤(プロデグラダント)を加え、紫外線・熱・酸素によるポリマーの酸化を促進し、低分子化させたものを微生物に分解させようというものです(Ammala et al. 2011)。

しかし、そもそも分解されない石油由来のプラスチックを細かくするだけで、大量のマイクロプラスチックを生成し、生み出されたマイクロプラスチックが環境中で許容範囲の時間内に分解されるという保証はありません。そのためグリーンプラスチックのカテゴリーにははいりません。EUでは酸化型生分解性プラスチックの規制を検討しています(ECHA Juanuary 2018)。

3種類のバイオマスプラスチック

このように、バイオプラスチックは、原料をバイオマスとするか、あるいは生分解性なのかで、1.生分解性のバイオマスプラスチック、2.生分解性の石油系プラスチック、3.非生分解性のバイオマスプラスチック、の3タイプあることになります(荻野ら2018)。

非生分解性のバイオマスプラスチックには、サトウキビを原料とするバイオポリエチレンや、バイオPETなどがあります。従来のポリエチレンやPETの特性をもつように開発されているので、寿命や使用方法などは従来のものと変わりません。

なお私たちが普段使っている大半のプラスチックは、非生分解性の石油系プラスチックです。

バイオプラスチックは海のプラスチック問題を解決するのか?

ここまでざっとバイオプラスチック(バイオマスプラと生分解性プラ)について見てきました。では、バイオプラスチックの普及は海のプラスチック汚染や環境問題の解決索となるのでしょうか?

バイオプラスチックのうち、バイオポリエチレンのような非生分解性のバイオマスプラスチックは、従来のプラスチックの代替として使えるため、レジ袋などの日用品や電化製品など様々な用途に使われています。しかし、自然環境で分解されることはないため、ゴミとなれば(焼却しない限り)半永久的に自然界に残ります。

多くの国では、プラスチックごみを埋め立て地に捨てていますが、非生分解性のバイオプラスチックは埋め立て地で半永久的に残ります。埋め立て地は海の近くにあることが多々あり、そこから一部が漏れ出し、海に流れていきます。

分解されない点において、従来の石油系プラスチックと変わりなく、非生分解性のバイオマスプラスチックは海のプラごみ問題の解決策にはならいでしょう。

海プラスチックごみ

自然環境を忠実に反映していない「生分解性」

では、”生分解性”のバイオマスプラスチックまたは石油系プラスチックではどうでしょうか?

生分解性プラスチックは従来のプラスチックよりも環境中で速く分解されるため、環境中に残存する時間が短いために生態系へのインパクトが少ないとされています。

生分解性プラスチックは,捨ててもいつかは消えてなくなると思われていました。しかし実際はそうではないことが徐々に明らかになってきます。

そもそも生分解性プラスチックの「生分解性」はどのように評価されているのでしょうか?

実は、生分解性は、「工業的なコンポストにおける理想的な条件の下で」で評価される場合がほとんどです(Song et al. 2009)。本来なら、生分解性プラスチックは、土壌や河川・海洋などの自然環境下で微生物により分解・消費され、自然に還っていかなければなりません。

しかし、自然環境下で生分解性を評価する方法は、試験が長期にわたる上に、場所や季節によって結果がバラつくため、たいていコンポストを用いた方法で生分解性が評価されています(Song et al. 2009荻野ら2018)。

そのため生分解性試験の多くは、閉鎖形で、温度・通気および水分レベルがコントロールされた条件で行われることになります。微生物も特定のものが評価に使われることもあります。したがって、これらの方法で評価された生分解性が、自然環境を忠実に反映しているとはいいがたいでしょう。

海洋プラスチックごみ

さらに生分解性の試験の多くは、温度が20℃〜60℃で実施されます(日本バイオプラスチック協会 2009)。しばし20度を下回る冷たい海の環境を忠実に反映しているとはいえません。そのため、生分解性プラスチックがごみとなった場合、自然環境中でどのくらい長い時間残り続けるのか実はよくわかっていません(Toshin et al. 2012, Green 2016Kubowicz & Booth 2017)。

結局のところ、市場に出回っている生分解性プラスチックの大半は、仮に海中などの自然環境に出てしまうと、分解に極めて長い時間を要するか、もしくはほとんど分解されないのです(Karamanlioglu & Robson 2013)。原料が100%バイオマスならやがて分解されるでしょうが、原料に石油系が混じっていれば極めて困難です。

以上をふまえ、国連環境計画(UNEP)は、生分解性プラスチックは海洋ごみの現実的な解決方法にはならないと見解を示しています(UNEP 2015)。

海洋ごみ

一人歩きするバイオプラスチックのエコなイメージ

ましてや、生分解性プラスチックがマイクロプラスチックとなって海洋生物にどのような影響を与えているかもまだよく分かっていません。しかし、いくつかの研究は生分解性バイオマスプラスチックが小さな破片となったマイクロプラスチックが生物に与えるインパクトは、従来のプラスチックに由来するマイクロプラスチックとほとんど同じであると指摘してます(Green 2015, Green 2016)。

にも関わらず、上記のような事実は伝わらずに、「生分解性」という言葉が一人歩きして、あたかも速やかに自然環境で分解され、エコで環境に優しいというイメージを植え付け,消費者や企業に大きな誤解を与えているのも事実です(Kubowicz & Booth 2017)。

そして環境配慮をしているように装いごまかされた(グリーンウォッシングといいます)バイオプラスチックが氾濫するようになります。

事実、ストローやレジ袋の廃止・抑制が叫ばれる昨今、代替として生分解性プラスチックでできたストローやレジ袋が出回っています。国・行政レベルで生分解性プラスチックへの切り替えを推奨しているところも数多くあります。

バイオプラスチックへの期待と不安

今後、研究と開発が進み、石油を使わない・速やかに生物分解され生態系や生物に影響を与えないバイオプラスチックが実用化されることが望まれています。私たちはプラスチックの使用を減らすことはできても、完全にプラスチックを抹消することは現実的ではないし、おそらく無理でしょう。

たとえば、医療系のごみは、使い捨てにしないと病原菌がまじって(コンタミといいます)大きな問題につながりかねません。プラスチックを減らせる分野はとことん減らし、プラスチックではないと無理な分野はバイオプラスチックの応用が期待されます。

近年、海中でも分解できる生分解性プラスチックの研究・開発が進められています。たとえば、カネカは、海中でも分解されるプラスチックの開発を進めており(カネカ August 2018)、今後の発展が期待されます。

私たちの身の回りにある容器・包装の使い捨てプラスチックの多くは、商品が見えるように、「透明な」プラスチックが好んで使われています。中身が見えないと不安で買ってくれないからかも知れません。現状、生分解性プラスチックは不透明なため、その用途は限られると言っても過言でないでしょう。

バイオプラスチックは、生分解性であれ、バイオマス由来であれ、従来のプラスチックと同じように添加剤を加えられることがあります。やはり燃えやすいため、難燃性をもたせるために臭素系(ブロム系)などの難燃剤が添加されます(日本バイオプラスチック協会 2009)。このような有害な(または潜在的に有害な)物質を使わざるを得ない点においては、バイオプラスチックは従来のプラスチックの代替として100%歓迎されるものではありません。

結局バイオプラスチックはどうなの?

まとめると、現時点ではバイオプラスチックの普及が直接、海のプラスチック問題やごみ問題を解決するわけではありません。生分解性プラスチックの世界生産量は、プラスチック生産量全体の0.3%程度とごく僅かです(2016年時点、European bioplastics 2016)。

むしろ、当たり前となっているプラスチック漬けの生活を改め、過剰なプラスチック包装・容器や一瞬でごみとなる大量の使い捨てプラスチックの使用量をとことん減らすことが、まず何よりも取り掛かるべき課題でしょう。

海洋プラスチックごみの6割以上は、容器・包装に代表される使い捨てプラスチックで占められているのですから。

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