海洋ごみの脅威

海底が窒息.覆い被さるプラスチックごみ

今日製造されるプラスチックの約半分は海水よりも比重が重く(PlasticEurope 2015),それらはごみとなって海に入ると,やがて海底に沈みます.東京湾の海底には,80-85%がプラスチックで埋もれている場所があります(Kanehiro et al. 1995).

北米の廃棄物管理データによれば,およそ66%のプラスチックごみは海水よりも軽く,残りの34%は海水より重たいため沈み(たとえばペットボトル),最終的には海底に堆積します.(van Cauwenberghe et al. 2013, Pham et al. 2014, Woodall et al. 2014).

軽くて海の表面に浮くプラスチックごみも,付着生物がつく,他の重たいプラスチックが絡まるなどして,重くなり,沈んでいきます.

捨てられた漁網や釣り糸,プラスチック製のレジ袋(ポリ袋)などは,しばし海底を覆ってしまいます.特にオモリのついた漁網や釣り糸は,直ちに海底に沈みます.海底に沈んだごみは,海底の動植物に甚大な被害を及ぼします.その1つが『覆い被さり』です(Kühn et al. 2015).

漁網やポリ袋などは,海底の生物に直接覆い被さり,光を遮り,堆積物を無酸素状態にしてしまいます(Watters et al. 2010, Van Cauwenberghe et al. 2013, Pham et al. 2014).さらに海流や波などで引きずられると,壊れやすい海底の植生(サンゴや海草)に深刻なダメージを与えてしまいます(Kühn et al. 2015).

サンゴ礁では,海洋ごみがサンゴを覆ってしまい,サンゴの被度(ひど)を減少させています(Richards & Beger 2011).ハワイのオアフ島では,サンゴ群体の65%が釣り糸に絡まり,そのうち80%の群体が部分的にあるいは完全に死亡しました(Yoshikawa & Asoh 2004).

ごみに覆われたサンゴは,物理的なダメージを受けるだけでなく,光を遮られて光合成ができなくなります(Richards & Beger 2011).また,ごみが覆い被さることで,水の交換が悪くなり,口元にとどく餌プランクトンの量が減ってしまうのです(Kühn et al. 2015).

ジュゴンの餌場としてよく知られるアマモ(海草)場も,海洋ごみの覆い被さりによって甚大な被害をうけています.ある研究は,実験的にアマモ場を網で覆わせたところ,アマモの株数が大幅に減少したと報告しています(Uhrin et al. 2005).光合成が妨げられるだけでなく,網の重みでアマモの葉がすり減り,酸素が減った堆積物に押し込まれ,葉が窒息しました(Uhrin et al. 2005).

海洋ごみによる覆い被さりは,堆積物中の酸素濃度を低下させます.たとえば,ポルトガルのナザレ海底谷では,大量のポリ袋が海底を覆うことで,間隙水(かんげきすい:堆積物中の水のこと)の交換が悪くなり,堆積物中の酸素濃度が減少しました(Mordecai et al. 2011).これは堆積物に生息する生物に致命的な影響を与えます.

実験的にポリ袋を,浜辺に9週間敷き詰めた研究では,堆積物の酸素濃度が低下し,1次生産が著しく下がって,堆積物中の無脊椎動物の数が大幅に減少したと報告しています(Green et al. 2015).

このように,海洋ごみの「覆い被さり」によって,生態系の機能は長い間影響を受け,脆弱(ぜいじゃく)な生息域における生物多様性の減少が懸念されています(Kühn et al. 2015).

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