2050年にプラスチックが魚の量を超えます

『磯の匂い』がするプラスチックごみに騙されるアホウドリ

アホウドリの雛と海洋ごみ

海洋生物の餌には,プラスチックごみが当たり前のように混入するようになり,プラスチックの摂食(誤飲)によって被害を受ける海洋動物の数は増えるいっぽうです(Kühn et al. 2015).

プラスチックの摂食は,海鳥で広く知られています(Yamashita et al. 2016).すでに40%の海鳥(406種のうち104種)から,海洋ごみの摂食が報告されています(Kühn et al. 2015).

とくにアホウドリを含むミズナギドリ目の海鳥からよくプラスチックの摂食が知られています.

プラスチックを摂食する海鳥

海鳥の種類によってプラスチックを食べてる頻度や量は大きく異なりますが(Ryan 2015),一般的にプラスチックの摂食によって胃潰瘍が生じたり,消化能力が低下したりします(Yamashita et al. 2016).

プラスチックで消化管が閉塞すると,飢餓状態になります(Pierce et al. 2004).

またプラスチックで胃がいっぱいになると自分が満腹であると錯覚して餌を探そうとしなくなります(Hoss & Settle 1990).

飲み込んだプラスチックが鋭利な場合には消化管が傷つきます.さらに困ったことに,プラスチックを食べることで毒性のある化学物質を体に多く取り入れてしまいます(Yamashita et al. 2011, Tanaka et al. 2013).

こうして栄養状態は著しく悪くなり,子孫を残す機会が奪われ,やがて死にいたります.

残るのは骨と毛とプラスチックだけです.

海洋プラスチックごみを食べて死んでいる海鳥

餌場に集まるプラごみ

プラスチックごみは海洋環境のいたるところで見つかっていますが,海洋動物が餌を求めて集まる場所に集積する傾向があります(Howell et al. 2012).

海鳥は餌を求めて潮目(しおめ)に集まってきますが,ここには漂流するプラスチックごみも集まってきます.

潮目(しおめ)とは,水温や塩分など密度が異なる水塊(すいかい)と水塊がぶつかる場所のことです.

密度が異なるのですぐには交わらず,水塊と水塊の境界で流れが弱くなります.そのためプランクトンなどの浮遊物が集積します.

こうして集まったプランクトンを求めて小魚もたくさん集まってくるため,海鳥にとっては格好の餌場になっているわけです.

しかし集まるのはプランクトンや魚だけではありません.漂流するプラスチックごみも集積します.

したがって海鳥は餌をとるときに多くのプラスチックごみに遭遇することになります.

これまでにミズナギドリ科やアホウドリ科のように海の水面付近にいる獲物を食べるミズナギドリ目の海鳥からプラスチックの摂食が多く報告されています(Yamashita et al. 2016).

これらの海鳥は表面に浮いているプラスチックを餌と一緒に食べてしまっているか,あるいは餌と間違えているようです.

というのはプラスチックがプランクトンの「匂い」を放つからです(Savoca et al. 2016).

海鳥の胃からでてきたプラスチック

アホウドリの胃からでてきたプラスチックの山.海鳥はプラスチックの表面についたプランクトンの「匂い」に騙される.Photo: Burke Museum/Flickr (CC BY-NC 2.0)

プランクトンの「匂い」がするプラスチックごみ

ミズナギドリ目の海鳥は臭覚が発達しており,プランクトンの居場所を匂いでみつけることができます.

その匂いの正体とは,磯のにおいと同じ硫化ジメチル(DMS)です(Nevitt et al. 2002).

あの「磯臭い」においのことです.

 DMSができるまでには,いくつかのステップを踏みます.

まず植物プランクトンの体内でDMSの前駆体であるDMSP(ジメチルスルフォニオプロピオン酸)が生成されます.

 植物プランクトンの細胞が動物プランクトンに食べられると,細胞が破砕されて細胞内のDMSPが海水中に溶出します.

溶出したDMSPはバクテリアに食べられます.

このとき分解酵素の働きで,DMSPDMSに変換されます(Nagao 2012).

 海水中のDMSは大気へ放出されますが,植物プランクトンと動物プランクトンの量がたくさんあれば大気へ放出されるDMSの量も多くなります.

こうして海鳥にプランクトンの居場所を教えてくれます.

 ところがプラスチックごみにはたくさんのバクテリアが付着しており,このバクテリアがDMSPDMSに変換するため,プラスチックがプランクトンの香りで包まれてしまうのです(Savoca et al. 2016).

そのためミズナギドリ目の海鳥は,なんの疑いも持たずにプラスチックごみを摂食しているのではないかと考えられています(Savoca et al. 2016).

プラスチックを子供に与える親鳥

お腹をすかせた子供達の待つ巣に戻った親鳥は胃の中に入った食べ物を吐き出して子供に与えます.

このときに,プラスチックも一緒に子供の口に移っていきます.

ミッドウェイ環礁では,コアホウドリのほぼ全てのヒナ鳥(調査したヒナ鳥の97%以上)が大量のプラスチックを胃の中にいれていました(Auman et al. 1997).

海洋プラスチックごみを食べるアホウドリ

コアホウドリを含むミズナギドリ目のヒナでは,胃に溜まったプラスチックを吐き出すことができず,巣立ちをする前に死んでいきます(Auman et al. 1997, Lavers et al. 2014).

胃袋にプラスチックが溜まっていくと本物の餌が食べられなくなり,栄養失調や脱水症状を起こします.

待っているのは餓死だけです(Auman et al. 1997).