世界記録スイマー、太平洋ごみベルトを泳ぐ

海洋プラスチックごみ

東京からサンフランシスコまで泳ぐ

ビート板なしで大西洋を泳ぎ切った超人がいます.フランス生まれのBen Lecomte氏です.大西洋を泳ぎ切ったのは1998年のこと.そんな世界記録スイマーである彼が,心を痛めていることがあるそうです.そう,海に浮かぶプラスチックごみです.

15歳の時から海を熱心に泳いでいるLecomte氏は,20年前と比べて海の状態が全然違うことを指摘しています(The Globe and Mail 2014).いつ泳いだって,そこら中に浮いているプラスチックに頻繁に出会うんだと.

そんな彼が,海洋ごみ問題の関心を高めるために,なんと太平洋を泳ぎ切るプロジェクトを実施中です.東京から出発してサンフランシスコまでを5-6ヶ月かけて泳ぎ切る壮大なプロジェクト.世界最長の水泳(The longest swim)という名前のプロジェクトです.

東京からサンフランシスコまで,およそ8850kmの超長旅(いや水泳)になりますが,彼が泳ぐ経路はまさに北太平洋環流の内側です.そう,そこには悪名高いグレートパシフィックごみパッチ(Great Pacific garbage patch)があります.日本では,太平洋ごみベルトと呼ばれています.

太平洋ゴミベルト

グレートパシフィックごみパッチのイメージ.アジア地域から海流にのって流れたごみが北米西海岸の沖合いで高密度に集積する.

上の図を見てください.北太平洋をぐるりと時計まわりに一周する巨大な海流のループ(北太平洋環流)の内側に,ごみが集積して巨大なごみの集積所(パッチ)をつくります.このグレートパシフィックごみパッチは,アメリカ西海岸の沖合にあるため,東太平洋ごみパッチ(Eastern Pacific garbage patch)とも呼ばれます.

余談ですが,このグレートパシフィックごみパッチ(Great Pacific garbage patch)は, 日本語では太平洋ごみベルトと翻訳されています.しかし,「パッチ」は「ベルト」とは異なります.太平洋ごみベルトは,むしろ日本列島の南側からアメリカ西海岸にかけて,ごみが帯状に集積している部分を太平洋ごみベルトといいます.

実は,北太平洋にはもう1つごみパッチがあります.日本の南方の沖合にある西太平洋ごみパッチ(Western Pacific garbage patch)です.ここは黒潮続流が再循環する場所として知られており,黒潮が渦を巻いてごみ溜まりになっていると考えられていますが,調査に乏しくその実態はまだ明らかとなってはいません.

さて,アメリカ西海岸から海に捨てられたプラスチックごみは,北太平洋環流にのって西に進み,黒潮にのって北上して,約2年間かけて日本の南側にあるごみの集積帯(西太平洋ごみパッチ)にたどり着くと言われています.

一方,中国,日本,東南アジアなどから入りこんだ海洋ごみは,たったの1年でアメリカ西海岸沖合いの東太平洋ごみパッチ(グレートパシフィックごみパッチ)にたどり着きます.その理由は,北太平洋亜寒帯循環の流れが手伝って,東向きに流れる海流が速くなっているからです.ただし,サイズの小さなマイクロプラスチックではもう少し遅くアメリカ側へ到着します.

プラスチックごみのスープを泳ぐ

日本付近からごみを捨てたら最終的にどこに流れて溜まるかのシュミレーション.最後にサンフランシスコの沖合いに溜まっているのが分かる.Image credit: Plastic Draft (CC BY-NC-SA)

このシュミレーションをみると,日本・中国・東南アジア付近で捨てたごみが流されて,サンフランシスコの沖合いのグレートパシフィックごみパッチで高濃度に溜まっているのがわかると思います.

グレートパシフィックごみパッチのごみの量がとんでもないことになっている理由は,アジア(特に中国と東南アジア諸国)から海に入りこむプラスチックごみの量がすごいからです(Jambeck et al. 2015).

今回の旅の途中,Lecomte氏は泳ぎながら大量のごみに遭遇するのは必然です.場所によっては海を泳ぐというよりプラスチックごみのスープの中を泳ぐことになるでしょう.

海洋プラスチックごみ_マイクロプラスチック

Lecomte氏が太平洋を横断中に頻繁に出会うと予想される海洋ごみにはマイクロプラスチックも含まれます.マイクロプラスチックとは大きさが5 mm以下の非常に小さなプラスチックのかけらで,大きなプラスチックが劣化して微細化したものと,もともとサイズが小さいマイクロビーズなどが含まれます.

マイクロプラスチックには,製造時に添加された有害な化学物質や,海洋環境から吸着した汚染物質が含まれていることがあります.

そして食物網の底辺を構成する動物プランクトンなどの小さな動物に食べられて,さらに大きな動物に食べられ,食物連鎖の段階を上がっていきます.しかし生態系に与えるインパクトについてはまだまだ研究が始まったばかりです.

1998年に大西洋を横断したときと同じように,今回も,1日に8時間泳ぎ,食事と睡眠は支援ボートの上でとることになります(The Globe and Mail 2014).

Lecomte氏は, 今年(2018年)の6月初旬に日本からサンフランシスコに向けて泳ぎ始めました.しかしながら,800km泳いだところで2つの巨大な台風の接近により,やむを得ず中断(Seeker Aug 2918).現在,橫浜で待機しているようです(DW 2018).

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